安全保障関連法を憂慮する声明

横浜国立大学有志

 2015年9月23日 


第二次安倍内閣は、憲法学者の9割が「憲法違反」とし国民の8割が「議論が尽くされていない」と考える安全保障関連法案を、7月の衆議院につづき、参議院特別委員会の「採決」を強行、9月19日未明参議院本会議において与党を含む5党の賛成をもってこれを「成立」させました。


今回の安倍内閣の政治姿勢と国政運営の手法について、私たち横浜国立大学の有志は、真理探究と若者の教育を使命とする場にある者として、強い懸念と深い憂慮を抱かざるをえません。


およそ大学は、真理を愛し・善美を希求する者の集う場です。立場は研究教育者・学生・職員と多様であり、また現代の細分化された学問では分野ごとに考え方も研究手法も異なっています。しかし、私たちは、それぞれの仕方・それぞれの持ち場で、真・善・美のためにともに貢献していることを誇りとし、この使命のために、あらゆる違いをのりこえて大切だと考える共通の価値をもっています。今回の国政運営のあり方は、こうした私たちの基本的価値観をゆるがしかねないものでした。その基本的価値観とは、第一に人間理性への信頼であり、第二に不偏不党の精神であり、第三に権威の自己抑制です。


第一に、私たちは、今回の政府与党の姿勢は、真理探究の原則である、すべての人間に分有される理性への信頼をないがしろにするものと考えます。学問は、たとえどれほど複雑を極め一般人に理解しにくいように見えようとも、およそ理性を備えた人間なら、だれでも進んで承認し同意することのできる真理がある、という信念は共有しているものです。学問における討議や論争が成立するのは、論拠と立証、論理と一貫性によって、万人を説得し納得させることができる、という世界観が共有されているからです。私たちは、政治における議論もまた、権威や威力による圧伏ではなく、あくまでも理性を信頼し言論の説得力によって国民の納得をかちとるべきものと考えます。今回、残念ながら、政府与党には、憲法学者や国民の側から提出された「憲法違反ではないか」という根拠のある疑念に対し、疑う側の理性に語りかけ、合理的な論拠を提出し、粘り強く議論を積み重ねようとする姿勢が乏しかったと言わざるを得ません。


第二に、私たちは、今回の政府与党の説明の仕方が、利害を超え・党派を超えることができる真理の不偏性を軽視していると考えます。学説の当否は、「だれが言っているか」ではなく「何が言われているか」によってこそ判断されるべきものです。真理は、学閥・学派・政治的主張・宗教的信条・性別等々を超えて妥当し、たんなる多数決によって決められるものではないからです。政治における議論においても、国の進むべき道を見いだすプロセスは、党派を超えて議論され、つねに「理のある所にしたがう」という姿勢なくしては成り立たないはずです。審議時間を根拠なく限定し、疑義追及も不徹底なまま議論を打ち切るという今回の議事運営の根底に潜んでいる「自派の意見は変えさせない」「他派の意見は受け付けない」という悪しき多数決主義は、私たちが大切にする開かれた学問精神とは相容れないものです。


第三に、私たちは、今回の政府与党の姿勢が、「真理の探究は権威によってゆがめられてはならない」という学問精神に背くものであったと考えます。「知を愛する者」は、自己の権威化を何より戒めるからこそ、自らを「知の所有者」とは呼びませんでした。学問に携わる者は、自らが権威権力となることによって「真理探究」をゆがめてしまう危険性について、自ら戒める謙虚さをもたなければいけません。政治の世界においても、この「自己の権威・権力に対して抑制的にふるまう謙虚さ」は同じように大切です。憲法とは、そもそも権力を担う者に対してこの謙虚さを求めるものです。今回の安全保障関連法案の審議経過には、残念ながら、この点でも私たちを憂慮させるところが多く見受けられました。


以上を踏まえ、私たちは、日本政府に対し、以下のことを強く求めます。


第一に、政府与党が、民主的な議論の原則を守る誓いを新たにすることです。政府与党は、法律がもつ強制力によって国民に服従を強いるのではなく、自ら約束した「丁寧な説明」を理性的に行い、異論・批判に謙虚に耳を傾け、国民の納得を得る努力を示してください。


第二に、政府与党は、多数の力によって物事を決する悪しき多数決主義の議事運営を謙虚に自己批判し、当該法律の効力を停止させる措置をとってください。


第三に、政府与党は、自らの権力の濫用を厳に慎むことを改めて誓約し、最高法規としての日本国憲法を尊重・遵守することを内外に明らかにしてください。


賛同者(五十音順・10月2日現在)

新井 秀明  (教育学)

石田 喜美 (読書教育・メディアリテラシー教育)

石山 晃一 (ドイツ文学)

伊集 守直  (財政学)

今村 与一 (民法)

植村 博恭 (経済学)

北川 善英 (名誉教授 憲法学)

倉田 薫子 (植物地理学・植物系統進化学)

郷司 眞琴  (英語・英文学)

塩路 直樹 (数学)

瀬谷 昇司 (教育学部数学科80年卒)

高山 佳子  (名誉教授  障害児心理学)

玉野 研一  (数学)

多和田 雅保 (日本近世史)

土井 日出夫 (理論経済学)

中川 克志  (芸術学)

西村 隆男  (消費者教育学)

萩原 伸次郎 (名誉教授  経済学)

舟知 敦  (教育学部国語科86年卒)

古田 恵美子 (国語教育)

松永 友有  (経済史)

藪田 哲郎  (名誉教授 機械工学)

山崎 圭一  (途上国経済)

山本 泰生  (ドイツ思想=事務担当)

横尾 恒隆 (教育学)

吉田 昌平  (言語学)